凍てつく風が王国の北境を吹き抜ける。
一行は黒キムチの拠点とされる旧発酵自治区へ向けて、険しい山岳地帯を進んでいた。
ヒカル『…空気が重い。植物がほとんど枯れている。発酵じゃない、これは…腐敗だ。』
リョウヘイ『黒キムチの影響か…。発酵と腐敗は紙一重――カンジャン・キムはその境界を越えてしまったのか。』
カグラ『おっさんのカンで分かる。こっから先、ろくなことが起きへんで。』
フジ『な、なんでいつもこういう時だけ“勘が鋭いキャラ”になれるんですか…僕、もう帰っていいですか…?』
チョビ『はっはっは!震えるなフジ!命を賭けて戦えば、震えすら暖まるというもんよ!!』
レイ『近づいてきました。旧発酵自治区の入り口、“アミノ門”。』
石造りの巨大な門は、以前は発酵文化の象徴だったという。だが今、その門からは不気味な湯気が立ち上り、ツンと鼻に刺さる酸の匂いが漂っていた。
ヒカル『ここが…あのキムチ暴走事件の地か。』
レイ『……ご覧ください。』
視線の先には、発酵槽から滴る赤黒い液体に包まれ、うごめく“何か”の姿があった。
リョウヘイ『……人間…じゃない!?』
それはかつて人だった面影をかすかに残しながら、黒キムチの菌に取り込まれ、身体中から発酵蒸気を吹き出す“キムチゾンビ”だった。
キムチゾンビ『……カラダガ……カライ……オナカヘッタ……ネギヲ……』
ヒカル『来るぞ!!』
ヒカルが構えたのは、九条ネギの葉から抽出した“アリシン・スプレー”。
一方、リョウヘイは腰のホルダーから“キムチ剣”を抜いた。漬け込み式で、辛味と乳酸菌を高濃度に凝縮した特製兵装だ。
ヒカル『ネギの抗酸化力で押し戻す!』
リョウヘイ『キムチの辛味で浄化する!』
二人の兄弟が、発酵と命の力を信じて敵へと突き進む――
* * *
数時間後。撃退されたゾンビたちは灰のように崩れ、あたりにはわずかな静けさが戻った。
フジ『ぜぇ…ぜぇ…ひぃ…これが…戦場……』
カグラ『ええ運動になったわ。』
チョビ『坊っちゃま、王子様!あの岩山の上をご覧ください!』
その先に――朽ちた塔の頂きに、カンジャン・キムの影が現れる。
カンジャン・キム『…ネギとキムチ…か。まさかこの俺に逆らうとはな、ヒカル、リョウヘイ……』
レイ『見つけました、キムの本拠地。ですが……これは罠かもしれません。』
ヒカル『構わない。ここまで来たら進むしかない。母上の命も、王国の未来も、ここに懸かってるんだ!』
リョウヘイ『僕も行く。兄さん、僕はもう“影”でいるつもりはない。ネギでもキムチでも、全部を背負って戦うよ。』
ふたりの王子の間に漂っていた緊張が、共闘の炎へと変わっていく。
けれどその足元に、すでに“次なる菌”が忍び寄っていることを、誰も気づいていなかった。
――そして物語は、最終章へ向けて動き出す。