数日後、フープ王国の郊外にある発酵研究所。
キムチ界隈の一部と王国学術団が協力し、発酵技術のさらなる発展を目指して建てられた施設だ。
研究員『リョウヘイ様、ヒカル様。お越しいただきありがとうございます。こちらをご覧ください。』
案内されたのは、漬け込み実験室の一角。そこでは無数のキムチが熟成の段階にあったが、異変が起きていた。
フジ『うわっ、この匂い……。キムチの発酵臭じゃない、何かが腐ってる……?』
研究員『実は、最近この研究所内で、一部の発酵槽が異常な速度で腐敗に進んでいるのです。さらに……』
研究員がガラスケースの中を指差す。
研究員『こちらの菌株をご覧ください。黒キムチの事件で検出された“黒菌β種”。本来は封印されたはずのこの菌が、自然発生的に現れたのです。』
チョビ『なっ……!? あのときヒカル王子が封じたはずじゃ!?』
ヒカル『確かに、九条の祠に封印した……それがどうして……?』
レイ『つまり、菌は完全には消滅していなかったということですな。自然界に潜伏し、何らかの条件で再活性化した可能性がございます。』
リョウヘイ『今後、この黒菌が広まれば……キムチどころか、この国の農業、食文化そのものが崩壊するかもしれない……!』
カグラ『ってことは、また“あの地”に行くしかないんやな……』
フジ『ひぃぃ、“あの地”ってあの、菌の底知れぬ闇が渦巻くと噂の……!?』
ヒカルは黙って頷いた。
ヒカル『――九条の奥地。かつて僕たちが“ネギの宝石”を見つけた聖域だ。そこに、黒菌を完全に無害化するための“解発酵結晶”があるかもしれない。』
リョウヘイ『兄さん。僕も行く。』
ヒカル『……リョウヘイ、お前が国を守るべきだ。王となって、この国の不安を払拭するのが君の役目だ。』
リョウヘイ『違う。兄さんと共に戦う。それが、今の僕の決意だ。王としてじゃなく、弟として。兄弟として。』
ヒカルは目を細め、うっすらと微笑んだ。
ヒカル『――分かった。じゃあ、王子二人による“菌討伐の旅”の再開だな。』
チョビ『おぉぉぉぉぉぉ!! ついに来た!王子兄弟の共闘じゃあああ!!!』
カグラ『なんや、めっちゃ胸熱やんけ……!』
フジ『また旅ですか……また荷物持ちですか……』
その夜、二人の王子は決意を新たに王宮を発った。
目指すは九条の聖域、そして“発酵の崩壊”の元凶を断ち切る鍵――“解発酵結晶”。
だが彼らの旅路を待ち受けるのは、かつてないほどの深き発酵の闇だった。
それはネギとキムチの調和をも壊しかねない、未曾有の試練。
そして、彼らの不在中、王国ではある陰謀が静かに動き始めていた――
次回『発酵の迷宮』
兄弟の絆は、再び試される。