王国の空は、どこまでも澄み切っていた。
ヒカルとリョウヘイが「谷の決戦」から帰還して数日。王都は奇跡のような静けさに包まれていた。
だが、王宮の奥深く――かつてこの国に笑顔と知恵をもたらした女王は、いまだ病に伏していた。
医師『女王陛下の容態は安定しておりません。栄養を摂っても、体が受けつけておられぬ様子で……』
リョウヘイ『母上……』
ヒカル『……やっぱり、普通の料理ではもうだめなんだ。』
ヒカルは慎重に、ラーユから託された「融合の元」の小瓶を取り出した。ネギの滋味とキムチの刺激が混じり合い、瓶の中では小さな気泡が踊っている。
フジ『ひぇぇ……あの小瓶から発せられる香気だけでご飯三杯いけそうですぅ……』
カグラ『いや、それだけで失神する奴もおるやろ……』
レイ『この融合の元……“最後の一皿”を作るというのですね?』
ヒカルは力強くうなずいた。
ヒカル『僕が作る。僕の手で、母上を救う料理を。ネギの宝石の力と、キムチの命を融合させた“完全食”を完成させるんだ!』
リョウヘイ『……僕も手伝うよ、兄さん。母上を救いたいんだ。二人で作ろう。』
チョビ『わたくしも微力ながら包丁を研いでおきましたぞ!!』
フジ『僕も野菜を洗うくらいは……たぶん……』
こうして、王宮地下にある古の厨房『神の台所』にて、「最後の一皿」の調理が始まった。
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ネギは透き通るまで炒められ、甘みを引き出される。キムチは特製の塩麹とともに熟成を極限まで引き出され、旨味を凝縮させていく。
仕上げには、融合の元を数滴、慎重に――慎重に注ぎ込む。
ヒカル『……出来た。これが、僕たちのすべてを込めた料理……“ネギキムチハンバーグ”だ。』
レイ『美しい……ハンバーグとは思えぬ深い輝き。』
そして――女王の枕元にそれは運ばれた。
静かにスプーンを口に運ぶと、女王の目に微かな光が戻る。
女王『……この味は……ヒカル?』
ヒカル『母上!!』
女王『ネギ……とキムチ……うふふ、懐かしいわね。あなたたちがまだ小さかった頃、よく一緒に……』
その声は弱々しくも、確かに生の力を取り戻していた。
医師『し、心拍が安定しました!体温も正常値に!』
王宮中に歓声が響く。
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翌日、王宮前広場。
王国民『ヒカル王子万歳!!』『リョウヘイ様もありがとう!!』『ネギとキムチこそ、この国の光!!』
ふたりの兄弟は肩を並べ、民の声を静かに聞いていた。
リョウヘイ『兄さん……僕はもう、国を背負う覚悟がある。でも、兄さんが王になるなら、それも嬉しい。』
ヒカル『リョウヘイ……僕も、君が国を導く姿を見て、信じられるようになったよ。どっちが王になるべきか、決める時が来たのかもしれないね。』
レイ『まもなく、王位継承の儀式を行うべき時が訪れます。選ぶのは、あなた方自身ではなく……民の心です。』
チョビ『いよいよ、運命のときですねぇ……』
王国を救った兄弟。だが、王はひとり――
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次回『戴冠』
“ネギ”か、“キムチ”か――
栄養か、発酵か。
兄弟の絆の果てに、国民が選ぶ新たな王とは……?