闇に染まった発酵の間。ヒカルは光り輝く「ネギの宝石」を手に、重傷を負ったリョウヘイを背にして立ち尽くしていた。
ヒカル『……僕は、旅を通してたくさんのことを学んだ。ネギの力。発酵の知識。そして、誰かと向き合うということを。』
カンジャン・キム『お前に何ができる?この黒キムチの菌力は、もはや自然の摂理を超えた存在!王国の“健康”など、ただの幻想だ!!』
カンジャン・キムの背後で、ゾンビ化した発酵学者たちが不気味な呻きを上げる。
ヒカル『幻想?違う!ネギも、キムチも、人を癒し、支え、繋げる“食”の力だ!僕たちはただの野菜や菌に命を吹き込んでるんじゃない!想いを込めて、届けてるんだ!!』
その瞬間、ネギの宝石が眩い翠光を放ち、発酵の間全体に柔らかな香気が立ち込める。
フジ『こ、これは……!ただの香りじゃない……細胞が、浄化されるような……!?』
カグラ『ぐぅっ!目が……目がしみるけど、なんやこれ……涙が止まらへん……っ!』
レイ『これは……アリシンの極濃精製……いや、それを超えている!まさかネギの宝石とは、ネギの“魂”そのものだったのか!?』
チョビ『坊っちゃんのネギが……神の香りになっとる!?』
ヒカルは静かに目を閉じる。そして、ネギの宝石をそっと大地に植えた。
ヒカル『芽吹け……“癒しの根”よ――!』
ドゴォォォォン!!!
大地が震え、宝石から緑の蔦が瞬く間に発酵の間を覆う。ゾンビたちの身体が浄化されるように土へと還っていく。
カンジャン・キム『な、何だこれは!?黒キムチの力が……押されている!?』
ヒカル『ネギの宝石が示す真の力、それは“調和”。香りと辛み、野菜と発酵、そして……兄弟の絆だ!!』
リョウヘイ『……ヒカル、兄さん……』
倒れていたリョウヘイの体に、ネギの蔦が優しく絡み、肩の傷から黒い菌が抜けていく。
リョウヘイ『……あったかい……キムチの辛さと、ネギの甘さが混ざりあって……僕、生きてる……』
カンジャン・キム『ぐ、ぐぐぐっ……ば、ばかな!!わたしの研究が!!この“黒キムチ”こそ人類の進化の鍵だったのにィィィィッ!!』
キムの身体が黒い蒸気に包まれ、そのまま爆発的な菌風とともに吹き飛ばされた。
発酵の間は静けさを取り戻し、再び平穏な空間となった。
ヒカル『リョウヘイ……よかった……本当に……』
リョウヘイ『ありがとう、兄さん。……あのとき、僕は嫉妬してた。兄さんが国を飛び出して、自由に突き進む姿に。でも……僕もようやく分かったよ。兄さんは、僕が進むべき“道”を作ってくれてたんだって。』
ヒカル『僕だって、お前がいなければここまで来られなかった。王国を守ってくれて、本当にありがとう。』
二人は拳をそっと合わせた。
その瞬間、ネギとキムチ――“癒し”と“発酵”が真にひとつになった。
カグラ『なんや感動的やけど……こっちは死にかけたでほんま……』
フジ『ひ、引きましたよ……ゾンビに、匂いで……!』
チョビ『わしは見てましたよ、お二人の成長を!……嗚呼、尊い!』
レイ『……ですが王国に戻れば、新たな試練が待ち受けているでしょう。兄弟であっても、どちらが“次期国王”にふさわしいのかは……避けられぬ話題です。』
ヒカルとリョウヘイは、微笑みながらも互いを見つめ合う。
ヒカル『……それでも、向き合っていこう。僕たちの王国の未来のために。』
リョウヘイ『ああ。ネギとキムチが、手を取り合って進む王国を、僕たちが作るんだ。』
かくして、黒キムチ事件は終結を迎えた。だが、王国の未来に待つのは新たな選択――
次なる物語は、“王の決断”とともに幕を開ける。