九条の地――
霧の深い山を抜けた先に、聖域と呼ばれる谷がある。そこはかつて、ヒカル王子が“ネギの宝石”を見つけた伝説の地。今や人が近づくことすら許されぬ、封印された領域。

ヒカル『この空気……以前来たときとまるで違う。濃厚な……腐敗の気配がする。』

リョウヘイ『キムチの香りにも似てるけど、もっと……生々しくて重い匂い。これが黒菌の根源……。』

チョビ『坊ちゃん達、油断なさらぬように。ここは“発酵の迷宮”と呼ばれる場所。地形が刻々と変わり、菌の瘴気で幻覚を見る者もいるとか。』

フジ『いやです!すでにさっきから幻覚見てます!キムチが喋ってますぅ!!』

カグラ『それは空腹や。』

谷の奥へと進んでいく一行。地面には無数の白い菌糸が網のように張り巡らされ、ところどころで奇妙に膨れたキノコのような塊が揺れていた。

リョウヘイ『ヒカル兄さん……この場所……何かを思い出す。あの夜、母上の病が発覚した夜と、空気が似てる気がする……』

ヒカル『ああ……この瘴気は病の根源。恐らく母上を蝕んだ病も、この菌がもたらしたものなんだ。』

すると――

ゴゴゴゴゴ……!

足元が震え、巨大な菌糸が地中から隆起してくる!
その中央に現れたのは、異形の姿をした“黒菌の王”――“フレグマータ”。

フレグマータ『ネギとキムチ……くだらぬ調和……我は発酵の極限。すべてを分解し、無へ還すもの……』

ヒカル『来るぞ!』

チョビ『くそっ、化け物が喋ったあああ!!!』

フレグマータの放つ胞子が空気中に舞い、幻覚が仲間たちを包んでいく。

リョウヘイ『くっ……兄さんの姿が、母上に……!? これは幻覚か!?』

ヒカル『リョウヘイ、しっかりしろ!これは菌が見せる過去への執着……俺たちの心を試しているんだ!』

リョウヘイ『僕は……僕は母上を救いたい!兄さんと力を合わせて、絶対にこの腐敗を止めてみせる!』

ヒカル『よし、いこう……“解発酵結晶”はあの奥だ!』

カグラ『よっしゃああああ!突っ込むでぇええええ!』

フジ『ひぃぃぃ、やっぱり幻覚でも怖いものは怖いぃぃ!!』

胞子の海の中、兄弟は互いの腕を掴み、力を合わせて進む。

ヒカル『見えた……!あの輝き……!』

谷の最奥で、青白い光を放つ“解発酵結晶”が眠っていた。
それは九条の土とネギのエネルギー、そして人の想いによって結晶化した、奇跡の調和の象徴。

リョウヘイ『兄さん、あれを……!』

ヒカル『うん、今こそこの国を、そして母上を……救う時だ!!』

ヒカルが結晶に手を伸ばす瞬間、フレグマータが巨大な腕を振り上げる――!

だがその時――

???『やれやれ、少し遅れたようだな。』

谷に新たな影が現れる。

チョビ『あ、あんたは……!?』

リョウヘイ『まさか……!?』

謎の人物『俺もネギの一族だ。忘れてもらっちゃ困るな。ネギの精霊“ラーユ”の名を。』