王宮・王妃の居室──そこは柔らかな光に満ち、時が止まったような静寂が支配していた。
香のかすかな匂いとともに、寝台の上で穏やかな顔をして眠り続ける王妃の姿。
その傍らに、ヒカル王子が静かに立っていた。
ヒカル『母上……僕、戻ってきました。今なら、あなたを救えるかもしれない。』
手には、九条ネギの研究の末に辿り着いた「ネギの宝石」。
透き通る翡翠色のその結晶は、まるで命の息吹そのもののように微かに脈動していた。
フジ『投与方法は香気吸入法が最も効果的かと。微細に砕き、特別な加熱器で香気を抽出して吸入させます。生体反応も安全圏内……』
レイ『しかし、王妃様は王国の象徴。そのお身体を賭けた実験は慎重に……』
ヒカル『これは賭けじゃない。信じてるんだ、ネギが持つ“力”を。』
その時、居室の扉が開かれ、リョウヘイ王子が現れた。
リョウヘイ『やめてくれ、兄さん。母上の体を、勝手に使うな!』
ヒカル『勝手?……君は知らないんだ、あの土地で、あの土で、僕がどれだけのことを見てきたか。』
リョウヘイ『兄さんは“想い”に囚われすぎている!それがどれだけ危ういことか、今の国を見て分からないのか!?』
ヒカル『なら教えてくれリョウヘイ!君はこのまま、母上が永遠に目覚めなくても良いというのか!?』
リョウヘイ『……っ!』
感情がぶつかり合う。
チョビ『お、お二人ともおやめくだされ!王妃様の前ですぞ!』
沈黙が流れた。ヒカルは王妃の顔を見つめる。
リョウヘイもまた、その母の静かな表情に目を向けた。
レイ『……投与の前に、王国議会の承認が必要です。民と議員の代表者の同意を得ねばなりません。』
ヒカル『……わかりました。ならば、王妃様の命を救うために僕は民衆に訴えます。』
リョウヘイ『兄さん……僕は、今も迷ってる。だけど……僕も母上を救いたい。その気持ちは同じなんだ。』
兄弟の言葉が初めて、すれ違いではなく共鳴を生み始めていた。
レイ『では、二人とも。王妃様の奇跡の目覚めが、国を一つにする光となるように。私も尽力いたします。』
ヒカルとリョウヘイは、それぞれの想いを胸に、議会への準備を始めることとなった。
だが──
その夜、宮廷の地下にて、謎の黒衣の影が密かに動き出していた。
???『ネギの宝石が…王妃に使われる前に…回収せねば……。』
陰謀は、静かに王国の根を蝕み始めていた。