旧発酵自治区――
かつて微生物と人の共存を理想としたこの地は、今や赤黒い霧が立ちこめる“発酵の呪界”と化していた。

ヒカル『……この空気。酸と腐敗臭が入り混じってる。体の奥がむず痒くなるような感覚……』

リョウヘイ『兄さん、気をつけて。あの男は、俺達が思っている以上に深い闇を背負ってる気がする。』

レイ『ここはかつて、発酵学者たちが研究に命を捧げた聖地でした。数年前、黒キムチが生まれるまでは……』

チョビ『学者達が自らの発酵食品に飲まれたという噂もありましたな。』

フジ『や、やめてください……ホラーの前振りにしか聞こえませんって……』

ふと、前方に赤銅色の巨大な門が現れる。その上に刻まれている文字――
《菌神の間》。

カグラ『いよいよラスボスの間って感じやな。』

門がギィィ……と不気味な音を立てて開いた。

中は広大な空間だった。天井から無数の乳酸菌が垂れ下がり、床は発酵槽に覆われている。
中央には、玉座のような“漬け樽”があり、そこにひとりの男が座していた。

カンジャン・キム『来たか……ネギの王子と、キムチの王子よ。』

ヒカル『カンジャン・キム!お前が黒キムチをばら撒いた張本人だな!』

リョウヘイ『なぜこんなことを!?キムチは人を癒す力があるのに、なぜそれを……』

キム『癒し?力?――それは、選ばれし者だけの幻想だ。』

彼の手に握られていたのは、黒く変色した一本のキムチ。それはもはや食品ではなく、生きた“有機兵器”だった。

キム『かつて私は王国の発酵顧問官だった。キムチを使い、病に苦しむ人々を救おうとした。だが……』

キムは視線を王子たちに向ける。

キム『王宮は私の研究を危険視し、禁じた。発酵の“闇”には触れてはならぬと。だが私は知ってしまったのだ。菌は、感情に反応する。怒り、憎しみ、欲望――それが極限まで高まった時、発酵は進化する。』

ヒカル『そんな……それは発酵じゃない、腐敗だ!』

キム『否!それもまた発酵の“可能性”だ!!』

瞬間、キムが掲げた漬け樽から黒キムチの蒸気が噴き出す!
樽の中から現れたのは、かつての発酵学者たち――ゾンビ化した亡骸たちだった。

リョウヘイ『来るぞ!!』

再び戦いが始まる。
ヒカルはネギの香気を放つ“アリシン・ボルト”を放ち、リョウヘイは“辛味増幅キムチ剣”で敵を切り裂く。

だが――

ヒカル『くっ……!?動きが鈍る……!?』

リョウヘイ『兄さん!?ネギの抗酸化成分が通じない!?』

キム『ふはははは!無駄だ!黒キムチは発酵と腐敗を超えた“第三の菌”。もはや善悪では語れぬ力だ!』

そのとき、ゾンビたちに囲まれたヒカルが背を向けた瞬間――

リョウヘイ『危ない!!』

リョウヘイが間に割って入り、黒キムチの棘がその肩を貫いた――!

ヒカル『リョウヘイ!!』

リョウヘイ『……ぐっ……兄さん、よけるのが……遅いよ……』

ヒカル『なぜお前が……!どうして僕を庇ったんだ!!』

リョウヘイ『兄さん……いつも正しい。でも……いつも一人で突っ走る。僕は……兄さんの“影”じゃない……』

ヒカル『……リョウヘイ……!』

カンジャン・キム『哀れだな。仲間が一人、菌に呑まれたぞ?さあ……次はお前だ、ヒカル王子!!』

崩れゆく空間の中で、ヒカルの中に強い怒りが芽生えていた。

ヒカル『僕は……もう一人じゃない!!リョウヘイの想いを背負って、お前を止める!!』

彼の手には、旅の果てに得た「ネギの宝石」が光を放っていた――